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古沢良太の脚本はなぜ刺さるのか——どんでん返しと会話劇の作風を読む

「このドラマ、なんでこんなに台詞がクセになるんだろう」。リーガル・ハイやコンフィデンスマンJPを観ていて、ふとそう感じた人は少なくないはずです。その裏側にいるのが脚本家・古沢良太さんで、どんでん返しと会話の応酬を武器に、コメディと人間賛歌を両立させてきました。この記事では、古沢良太さんの代表作をたどりながら、作風の正体と、なぜこれほど支持されるのかを考えていきます。古沢作品を追ってきた人も、名前を初めて意識した人も、次に観たい一本が見つかるはずです。

目次

古沢良太とはどんな脚本家なのか

古沢良太さんは1973年8月6日生まれ、神奈川県厚木市の出身です。東海大学文学部日本文学科を卒業し、2002年に『アシ!』で第2回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞を受賞してデビューしました。デビュー時は28歳でした。

少年期は漫画家を志望していた経歴があり、1992年には集英社の手塚賞で準入選まで進んでいます。脚本を書くときに映像をイメージしながらスケッチブックに画を描く、という独特の作業方法もここに根があるのかもしれません。

受賞歴も厚みがあります。第29回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で、第27回向田邦子賞を『ゴンゾウ 伝説の刑事』で、第24回橋田賞を『デート〜恋とはどんなものかしら〜』で受けています。2016年のテレビ満足度調査では”高満足度脚本家”の1位に立ちました。

古沢良太の代表作には作風の転換点が刻まれている

古沢良太さんの代表作を時系列で並べると、作風が動いた瞬間がはっきり見えてきます。単なるフィルモグラフィの羅列ではなく、「どこで何が変わったか」で読むと面白い作家です。

事件ものから人間ドラマへ——古沢良太の出発点

キャリア初期の古沢良太さんは、テレビ朝日の『相棒』(2005年〜)など事件ものの現場で腕を磨きました。一方で映画『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)や『キサラギ』では人間ドラマを手がけています。本人は「事件ものはそれほど得意ではなく、人間ドラマが作りたい」という趣旨を語っており、その葛藤が『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008年)の「刑事ドラマの顔をした人間ドラマ」という結実につながったように見えます。

リーガル・ハイで確立した毒舌と正義の二重構造

『リーガル・ハイ』(2012年)は、古沢良太さんの名を一気に広げた転換点です。堺雅人さん演じる古美門研介は、偏屈で毒舌で人格破綻者として描かれながら、第9話の5分を超える長台詞で本質的な正義感をあらわにします。表向きの欠陥と内側のテーマが裏返しになる構造が、ここで明確に立ち上がりました。

デートとコンフィデンスマンJPで広げた振れ幅

『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(2015年)は橋田賞を受けた会話劇の到達点で、『コンフィデンスマンJP』(2018年)はコン・ゲーム(騙し合い)の快感を極めた作品です。ダー子という「いい加減で詰めの甘い」詐欺師を主役に据えながら、最後に「詐欺師なのに信頼が大切」という信条を差し出す。古沢良太さんの手口がもっとも華やかに開いた一本だと思います。

古沢良太の作風はどんでん返しと会話の応酬で出来ている

ここが本記事の核心です。古沢良太さんの作風を一言でいうなら「キャラクターとテーマを表裏で設計し、どんでん返しで反転させる会話劇」だと考えています。要素をほどいて見ていきます。

主人公の欠陥とテーマが裏返しになる設計

公式的に語られてきた特徴として、古沢作品では主人公のキャラクターと物語のテーマが表裏の関係に置かれます。詐欺師が信頼を語り、悪徳弁護士が正義を重んじる、という具合です。

この設計が効くのは、視聴者が最初に主人公を「困った人」として笑い、距離を取るからだと思います。笑って気を許したところに本心が差し込まれるので、感情の振り幅が大きくなる。マンガ的に誇張されたキャラを実写で愛させる、古沢良太さんならではの導線なのかもしれません。

時系列のシャッフルが生む「そうきたか」の快感

古沢良太さんは時系列のシャッフルを多用します。『コンフィデンスマンJP』では「騙したと思ったらバレていた、それも計算だった」という反転が何度も折り重なり、結果から原因へ遡る構造になっています。

個人的には、この種明かし快感は推理小説の作法に近いと見ています。先に断片を見せ、あとから配置を明かす。会話の応酬で笑わせながら情報を小出しにするため、伏線回収の瞬間に台詞そのものが効いてくる。古沢作品の台詞が記憶に残るのは、構成と台詞が一体だからじゃないかなと思います。

コメディと人間賛歌が同居する理由

エンタメ性の強い作品が多い一方で、欲・信頼・正義といったテーマが台詞の中に自然に浮かぶのが古沢脚本の持ち味です。痛快なコメディの底に人間賛歌が流れている。笑いを入口に、人間の弱さと矜持を肯定するのが古沢良太さんの一貫した姿勢だと感じます。リーガル・ハイの古美門の長台詞を観たとき、毒の奥にある誠実さに思わず居住まいを正したのを覚えています。

古沢良太と組む俳優・タッグには相性の良さがある

古沢良太さんの脚本は、誇張されたキャラを成立させられる俳優と組んだときに最大化します。堺雅人さんの古美門研介は、早口の長台詞を芝居として成立させた象徴的な好例です。会話劇を支える発話の技術と、コメディと哀感を行き来できる振れ幅が要になります。

長澤まさみさんが演じた『コンフィデンスマンJP』のダー子も、いい加減さと芯の強さを同居させる難役を引き受けました。古沢作品の主役は「欠陥を魅力に変換できる俳優」と相性が良いのだと思います。どの俳優を据えるかで、同じ設計でもまったく違う温度のドラマになるのが面白いところです。

どうする家康で挑んだことと古沢良太の次回作の見通し

2023年、古沢良太さんはNHK大河ドラマ『どうする家康』の脚本を担当しました。本人は「自分の中ではめちゃくちゃ史実を守ったドラマ」と語りつつ、描きたかったのは「天才じゃない家康」だったと明かしています。選択を迫られて迷い続ける人間として家康を描く視点は、古沢作品の「欠陥から始まる主人公」の延長線上にあると読んでいます。

コメディとコン・ゲームの名手というイメージが強い古沢良太さんですが、大河という重量級の題材で「迷う主人公」を貫いたことは、作家としての射程の広さを示したのかもしれません。今後については、得意の会話劇とどんでん返しを軸にしつつ、人間ドラマへの志向がさらに前面に出てくるのではないかと予想しています。

古沢良太の脚本がこれほど支持される理由

古沢良太さんが高満足度脚本家1位に選ばれた背景には、「台詞で刺さる」体験を安定して届けてきた蓄積があります。クセになる台詞、伏線が回収される快感、笑いの底にある肯定。この三つが毎回そろうから、視聴者は次回作も信頼して観に行けるのだと思います。

もう一つ見落とされがちなのは、間口の広さです。事件もの、ラブコメ、コン・ゲーム、大河と、ジャンルを横断しても「人間の弱さを笑って肯定する」核はぶれません。だからこそ、どの入口から入っても古沢良太さんの作品だと分かる。作家の署名が台詞と構成に刻まれているからこそ、長く支持されているのではないかなと思います。

古沢良太の作品をもっと辿りたい人へ

古沢良太さんは、欠陥を抱えた主人公をどんでん返しと会話の応酬で愛させ、笑いの底に人間賛歌を流す脚本家です。リーガル・ハイ、デート、コンフィデンスマンJP、どうする家康と並べると、ジャンルは違っても同じ核が貫かれているのが見えてきます。次に古沢作品を観るときは、主人公の「欠陥」と物語の「テーマ」がどう裏返るかに注目すると、何倍も楽しめるはずです。

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この記事を書いた人

ドラマ・映画のキャスティング考察を専門にする編集者。俳優のキャリア軌跡・過去作との連続性・脚本家や演出家の作風・事務所動向を組み合わせて「なぜこの俳優がこの役なのか」を読み解いている。

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